Kとお月さま (カーテンのある風景): August 29, 2020

  • acrylic painting, canvas, 530 × 455 mm

CONTEXT:

実家のソファの座面を開くと、そこには分厚い西洋美術の画集が数十冊のシリーズで敷き詰められている。

幼い頃、休みの日にはそれを広げて延々と眺めていた。美術史の名だたる面子が揃う様は圧巻で、「これが家宝よ」という母の冗談にも説得力があった。

当時なんとなく好きだった“お絵描き”に、“美術”の意識が芽生えた原因は、その“家宝”によるところが大きい。一冊ごとに一人が特集されていて、子供ながらに「色々な描き方があるんだな」とか「この画家が好きだ」というのがあった。
また同時に、これだけの絵が描けなければ“絵描き”としては生きていけないのだと思うようになった。

20年を経て、みんながみんなゴッホやピカソを目指すわけではないとわかったが、それでも“絵画”に対しては未だに畏怖の念がある。そこへの憧れが出発点だったはずなのに、私が作るものは一度だって、思い描いている“絵画”に接近できたことがないから。

キャンバスに魅力的な絵を描けなければ(絵心がなければ)他のどんな表現でも本当に美しいものはつくれない—

デザインの仕事をするとき、写真を撮るとき、イラストを描くとき、いつもこのことが思い起こされる。